
「学生としての力量」とは
国際協力活動等に取り組む官民の団体が一堂に集まるイベント「国際協力フェスタ」(2005年に「グローバルフェスタ」に名称変更)に参加する団体の1つから、「学生ボランティアをお願いしたい」と言われ、授業等で紹介し、何人かの学生がボランティア参加をしたことがありました。
そのイベントが終わって数日して、ボランティアに参加した学生の一人から「ボランティアに行ったけど、やることがなくて暇だった。ボランティアは必要なかった」と不満を言われました。「それは申し訳なかった」とお詫びをしたのですが、それから数日して、同じボランティアに参加した別の学生が私のところに来て、「ボランティアに参加したら、自由な時間が結構あったので、いろいろな国のテントを訪問して、『その国の美人の条件は何か』や『トイレの衛生状態はどうか』を聞いて回り、一覧表にして、レポートを書いてみた。楽しかった!」と笑顔で言ったのです。
同じ環境に出かけて行って、ある学生は「活躍の場がなかった」と不満を抱いて帰ってくる。別の学生は「多くの学びが出来て、楽しかった」と言って帰ってくる。その違いはどこから生じているのかと考えた時に、それは「学生としての力量」の違いであり、「受け身で学ぶ」か「主体的に学ぶ」かの違いなのだろうと思いました。
「学生としての力量」を育む
みなさんには、学生時代を通して、「学生としての力量」を育んでもらいたいと思います。「学生としての力量」とは、「学生時代に出会う様々な環境の中から学ぶ力」と考えてください。「学生としての力量」は、その学生が生まれ持ったセンスもあるかもしれません。しかし、少しでも「学生としての力量」を育むために、以下に2つのアプローチを挙げたいと思います。
アプローチ1:将来に対する強いヴィジョンを持つ
一つ目は、自分が将来、「これをやりたい」というヴィジョンを明確に持つことです。
そのヴィジョンが強くなればなる程、目の前に現れる出来事と自分が「やりたいこと」を結び付けようとする力も強く働きます。
私が授業等で関わった学生で、「将来、保育士になりたい」と強く思っていた学生がいました。芸術に関する講演を聴いた時の彼女のレポートに、「今日の講演で、縦線が見ている人に緊張感を与え、横線が安定感を与えることを知った。将来、自分が保育の現場で絵本の読み聞かせをする際に、子どもたちの気持ちがざわついていたり、落ち着きがなかったりした時には、なるべく横線の多い絵本を選んで子どもたちの気持ちを安定させたい。」と書いてありました。
彼女は自分が保育士になった時に、子どもとどう関わるかをいつも考えていて、保育と全く関係のない話であっても、「自分には関係ない」とは思わずに、「この知識をどう保育の場に応用できるのか」を常に考える心のセンサーが働いているのだと思いました。
アプローチ2:自分を自分で育む視点を持つ
二つ目は、自分を自分で育む視点を持つことです。学生時代には試練やハードルもやってきます。自分がやりたくないこと、苦痛に感じること、理不尽に感じることにも出遭うかもしれません。やめてしまいたい、逃げてしまいたい気持ちになることもあるでしょう。そんな時に、逃げることなく、正面からその試練やハードルに向き合い、自分を育むことによって、事態を乗り越えていく学生がいます。
ある学生は、スーパーのディリバリーのアルバイトをしていました。自転車でお客さんから入った注文の商品をお届けする仕事です。1日に50キロ以上走ることもあります。ある日、ビール1本の注文が入り、何キロも自転車を漕いでお届けしたら、そのマンションの1階に酒屋があり、「ここで買えばいいじゃないか!」と思ったこともありました。雨と強風の中、カッパを着て、自転車を漕いでやっとのことで商品をお届けしたら、「あら、雨降ってたの」と言われたこともありました。彼女は「ディリバリーのアルバイト、辞めようかな」と思いました。
でもその時、「このアルバイトを通して、『まごころ』を育むことに挑戦しよう」と決めたのです。「まごころ」とは、「たとえ理不尽と思われるような状況の中にあっても、誠意と愛情をもって尽くすこと」です。彼女にとってディリバリーのアルバイトは、「まごころを育むための研修」(まごころ研修)に変わっていきました。
雨と強風、そして、もう一人のバイトが欠勤という日。彼女は悪天候の中、6時間ずっと自転車を漕ぎっぱなしだったのに、一日の終わりには、「配達させていただき、ありがとうございます」という感謝の気持ちが湧いてきて、心は温かく、うれしい気持ちになっていました。
試練と困難のアルバイトを通して、彼女は自分の心の中にあった「まごころ」を引き出したのです。それは、どんな暴風雨にも負けない、心の内側から湧き出るエネルギーでした。
あなたも、「学生としての力量」を育む挑戦をしてみてください。きっと、見える風景が変わってくることと思います。